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コトバの国のコザルたち4
「シーザーサラダにさつまいもは入れるか?」

2006年に某パズル雑誌に書いていた「言葉×子ども」をテーマにした連載エッセイの中から、4編をほんのすこし加筆修正して掲載します。登場する個人名は、連載当時は「仮名」にしていましたが、ここでは容赦なく愛を込めて実名です。内容については2%ほどのフイクションが含まれます。

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「また、あのサラダ食べたい!」
次女メグが、突然目を輝かせて言う。
「あのサラダって?」
「クリントンが入ってるやつ!」
「クリントン? そんなの入れたサラダ作ったっけ?」
まあ、ほんとは何を言いたいのか、速攻わかってしまったとはいえ、
すぐ訂正したら、面白くないじゃないかー。

あ、いえ、本人のためにならない、ということです。
「クリントンねえ、入れたっけなあ? どんなの?」
「もう忘れたの? 生協のレタスについてきたじゃん。カリカリしてんの」
「いやー、いくら生協でもクリントンセット商品は無いと思うよ。
まがりなりにも元アメリカ大統領だし」
「ええ、さっき、何て言ったっけ? ほんとはなんだっ?」
「クルトンでしょ」

こんなやりとりをしていたのは、彼女が小四の頃。
先日、カリカリベーコンとレタスと水菜とゆでたまごの
シーザー風サラダ(残念ながらクルトンなし)を食べながら聞いてみた。
「そういえば、クルトンのこと、クリントンって言ってたよね。
どんな人か覚えてる?」
メグは、一秒もおかず即答する。
「知ってるよ! セクハラの人でしょ」

そっかあ! この一言ですべてが納得できた。小四生の頭に、どうして
「クリントン」がインプットされていたのか。
同じ間違えるなら、クリリン(サンリオのキャラ)、
クルタン(だれ?)などのかわいい系ではなかったか。
当時は、クリントンが出版した
モニカ嬢とのスキャンダルも綴った回顧録が話題になっていた頃。
ニュースやワイドショーには、モニカさんの画像が垂れ流され、
彼女は「モニカさんって、かわいいよね~」などと反応していた記憶がある。
コザルからコギャルへ進化の途上にあった彼女は、
芸能人の恋愛スキャンダルなどに興味津々であった。

「そんなことより、もすこしさあ、
ニュースもちゃんと聞いてた方がいいよ、もうすぐ中学だし」
と、いちおう姉のサキが横やりをいれる。
「べつにだいじょうぶだもん、この前も掃除の時間に、
みんなで北朝鮮の話してたし!」
「どんなこと?」
「やせてる人が多くて、かわいそうだよね、とか、
大統領(正確には主席)の子どもはぜいたくしてるらしいとか」
「ほうほう、ほかには?」
「みーちゃんんが言ってたけど、ディズニーランドに行きたくて、
こっそり日本に来てたって」
「ほうほう、ほかには?」
「あと、ポテドンが本当に日本に落ちてきたらこわいねって」
「ポテドン!」と、ハモって大爆笑する私とサキ。

「ちがう? なんだっけ? ポテ。テポドン?
わたしじゃないもん、やっちゃんが言ってたんだもん」
焦って訂正するメグを横目にサキが言う。

「そういえばさあ、こないだの現社のテストでさ、
最後にニュースがらみの問題あった。
自民党総裁選に出馬している人の名前を書けって」
「誰を書いたの?」
「よくニュースとかでしゃべっている人(官房長官のことらしい)を書いた。
でも下の名前の漢字がわかんなくて、ひらがなで書いた」
「まちがって、しんたろうって、書いてない?
そっちはお父さんだよ」
「だいじょうぶ。しんたろうなんて書いてない。こんよう、だよ」

「は?」
「だから、青木こんよう、だよ」

どちらの青木さまでしょうか?

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青木昆陽 あおきこんよう
江戸時代の儒学者・蘭学者。
サツマイモの栽培を広め、農民を飢えから救う。
彼がなぜ、三百年の時を超えて、
女子高生の現代社会の答案の上によみがえったのか、
まったくもって謎である。
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シーザーサラダに、さつまいもは、いれないよ!