2017年 書籍の巻頭特集に掲載
書籍掲載のご案内を兼ねて、書籍で伝えたことの一部とその背景について。
1|書籍掲載のお知らせ
BNN新社から3月3日に発行された「広報・PR担当者のためのデザイン入門」巻頭インタビュー記事で取材を受け掲載いただきました。お題は、益子町役場時代の仕事「土祭」「ミチカケ」を事例に「行政の場でデザインの力を活用する」ということ。
発行元の案内はこちら。→発行元のウェブサイト。
目次や一部誌面も読めます。企業の広報担当者向けの本という位置付けですが、もちろん行政職員の方にも!
益子町役場に取材の申し込みがあり、役場からの依頼で取材を受けました。この書籍はフリーランスで活動するふたりの女性編集者の企画です。企業や自治体などのPRの仕事を受ける中で、発注元の担当者との打ち合わせや仕事のやりとりの中で「このような本の必要性を感じた!」という実体験から生まれた強い意図がありました。取材のお話をいただいたときに、彼女たちが「課題」として感じてきたことが、私が地方行政の末端に席をおいた4年間に見えてきたことと重なり、最初のお電話でかなり意気投合しました。
この書籍の企画意図を発行元ウェブから抜粋しておきます。
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この本は、広報ツールのデザインをよりよいものにして、もっと効果的な広報活動、魅力的なPRを行っていきたいと考えている広報・PR担当者へ向けて作られています。デザインをきちんと学んではこなかったけれど、ページものやポスターなどを自分でデザインしないとならない状況にいる方、あるいは外部と連携して広報物を制作することになったけれど、そのやり取りに今ひとつピンときていない方、なかなか思うようによい広報物が出来上がらないと悩む方にとって役立つ、「知っておきたい広報のこと」と「押さえておきたいデザインのこと」を4つの章に分けて解説しています。見た目だけではなく、コンテンツの部分からも「伝わる」広報ツールを作るための、考え方の土台となるような一冊です。
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そのような趣旨の書籍の中で私に与えられた役割は、土祭とミチカケの業務の中で「デザイン」をどういう考えで、
どう取り入れたかの「解説」でした。インタビューに答えてまとめていただいた内容は、ある種のことを期待して読まれる広報担当者の方たちにはちょっと期待はずれかもしれません。「デザイン? その前の企画が大切でしょ?」と、ちょっと偉そうに、行政における企画の考え方を語っています。
一部だけ、書籍から抜粋します。
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(前略)土祭とミチカケに共通するのは、デザイナーの力を借りる前に、行政の中の担当者として、まず企画をしっかりと立てて中身を組み立てること。表には見えないところでの骨格や肉付けがあってこそ皮膚という表面に施されたデザインの力が生かされると簑田さんは考えています。
「地方創生の流れで、地方自治体が興すものごとに、とにかくデザインを入れよう! デザインをいれればなんとかなる、みたいな風潮もあるように感じますが、デザインは取り繕う手段ではなくて、企画趣旨を伝える手段であるべきだと感じています」
簑田さんは、企画をしっかり立てることをまず大切に考えています。ここで言う企画とは、いわゆる発想の目新しさではなくて、たしかな課題設定の上に課題解決の道筋が組み立てられたもの。(後略)
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次にこのように考えるまでの背景をお伝えしておきたいと思います。
2|地方行政の末席で考えてきたこと
2012−2015年度
フリーランスの編集者・ライターという立場から一転、4年間という短い間でしたが、地方行政の現場に席を置き仕事をさせていただいたことは、とても貴重な体験でした。勉強させていただきましたよ、いろんな意味で。日本の世の中の状況的には、地方行政の現場でも、冊子やウェブや映像などといった広報PRのためのメディア制作の仕事が増え続ける時期…
地方創生の煽りや旗振りやなんやかやであんたら地域が頑張ってなんとかする気あんのなら、ほらほら、資金を用意してあげるから!と助成金が降ってきます。そうなるとつまり、インバウンドやらプロモーションやら定義づけ不明のカタカナ言葉や移住定住促進やら物販イベントやら展示会やら、なんやらよくわからない催しやらが増え続け、
それにともない、広報のための制作物も増え続けるという状況。長い目で見て(←ここが肝要)本当にそれが必要なことなのか、検証や議論も不十分なまま「予算がついたから」進められる事業もあるでしょう。首長も管理職も「なぜそれが地域のために必要なのか」を、部下の担当者はもちろん、おそらく住民にも明快に共有も説明できない予算ありきの事業や単に「思いつき」レベルの事業もあるでしょう。
そういうものでさえ、担当者は、現場で住民への説明責任を負わされ、なにかを伝えるために、仕組みやメディアやチラシや…とにかく、試行錯誤しながら、「なにか」を作らなければなりません。かなりのストレスを抱えることにもなると思いますが、私が知り合った地方行政職員・若手の皆さん(担当者)は、本当に真摯に地域に向き合い、なにができるのか、この案件は、どうしたら良い方向に軌道修正していけるか、いろいろと考え続けている人たちも多くいます。
さて、そのひとりから、「広報勉強会を開きたい」と相談を受けたのが2015年の秋でした。益子町役場の数名で3回、県内自治体有志の方と1回。時間不足で、用意したサブノート的テキストはあまり有効に使えなかったのですが、目次と、一部を掲載しておきます。
広報勉強会|P4
*ここでは、「土壌」と「多年草」の循環で、1つの理想を描いています。このところ、あちらこちらでの打ち合わせや会議で出るキーワード。やはり土壌なんですよね、まず整えるべき環境は。
3|地方行政の場で、デザインの前にやるべきこと
再び、書籍掲載記事の話に戻ります。1で引用した書籍のインタビューでは、「デザインは何のために必要か?」を
「骨格」と「皮膚」という言葉を用いて伝えていますが、骨格は、例えば、魚です。フィッシュボーンです。人間や猿などは後ろにも横に進めますが、魚は前に泳ぎます。「目指すべき方向性」を持って作られている骨格です。行政の場で必要なことは、まず、その骨格を「道筋」として、しっかりと組み立てることです。
地域にはどういう資源があり、課題があり、可能性があり、どういう住民の希望があるか、そこを見据えて課題設定を行い、課題解決のための道筋を描くことです。骨格と肉付けが適正になされていたら、表面の皮膚にほどこされる色や形のデザインが、多少、冴えなくても地味でも、道筋を得た魚は、伝えたい人に向かって泳ぎ始めることができます。骨格に沿って施された(趣旨に沿う)デザインであれば、本当にそれを必要としている人の目にとまるはずです。
継ぎ接ぎだらけで骨格があるかないかもわからないようなものに、話題性や目立つこと優先のデザインが被せられても、伝える先もなく伝える力もないのでは、どこにも向かいようがありません。つまり、行政の場でデザインを入れるのならば…えーい、ここではもう、書籍では語り得なかった「ご提案」を書かせていただきます!
*担当者は
自分にセンスがないとかデザインのことはわからないとか、嘆かなくていいんです。センスが大切、センスが必要…という呪縛から逃れましょう。センスではなく、必要なのは、組み立てのロジックです。行政担当者として、企画のプロを目指しましょう。企画=アイデアではありません。発想力がなくてもいいんです。必要なのは課題設定と課題解決への「道筋」ですから、それは真摯に地域に向き合うことで見えてくるはずです。道筋を落とし込んだ企画書をしっかり作り、上司や外注先を説得し、ナビゲートていくためのツールにしましょう。
*首長さんや管理職さんは
⑴著名なクリエイティブな人を招けばなんとかなる、という妄想を早く捨てましょう。その予算があるなら、若手担当者に研修視察や勉強の環境を用意しましょう。育てましょう。
⑵デザインデザインと言うその前に、内部関係者で十分な議論や検証を尽くし、しっかりと企画(骨格)をつくる環境を整えましょう。部下が能力を発揮できる環境を整えるのが上司の仕事です。
⑶自分の退職までに、自分の任期中に…というタイムスパンでの思考から早く抜け出しましょう。行政の場で必要なデザインには、10年後20年後50年後を見据えて組み立てる「骨格」が必要です。
⑷ 担当者が形にするものにダメ出しをする場合は、まず、自分自信のビジョンをうまく担当者に伝えることができていたのか、共有ができていたか、そこから振り返ってみましょう。
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フリーランスとして20年以上の活動をした後に役場に席をおき、編集を軸に地域振興に携わり(実践の中で学ばせていただき)、若手職員の方たちと広報勉強会の機会を持て(考えが整理でき)、今は、文科省の地方創生事業の1つで大学の教育プログラムの1つ「地域編集論−地域振興と情報発信」を準備中です。(思考と実践の反復横跳びを繰り返しながら)
今後は真摯に地域と向き合おうとしている若手行政職員が、もっと気持ちの上でも楽に仕事を進められるように、
それが地域のためになっていくように、私も、次の世代を担う若い人たちと学ぶために、少しでも何かしらお役に立てるように、続・勉強会なども企画したいと思います。もっと私自身が精進してから。いずれ…ということで!