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地域発信の広報について
風景社:土祭2021広報業務
「日常」の集積にこそ光を当てる

2009年から3年に一度、益子町で開催されている、官民協働の益子の風土に根差した祭り「土祭/ヒジサイ」。2020年8月に設立した有限責任事業組合「風景社」で受託しました。その広報業務のことを、ここでは記しておきます。かなりの長文です。見出しをつけますので、関心があるところだけでも、お読みいただければ幸いです。

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少し、いや、かなり長い前置き

終わってからの感想を一言で言うと、非常に「辛い」業務でした。コロナ禍でも開催するとトップダウンで決定され、議会でも通過し、私ごときが色々と意見を申し上げても、それは覆らず、それどころか、出る杭は打たれまくり(ここでは割愛しますが、名誉毀損とも恫喝とも言える被害に遭いました)、精神的な疲弊感と、時間ばかりが「搾取」されるやりとりに、体力的な疲労感もつのりました。それでも、「住民参加をうたい、立ち上げたプロジェクトで、関わってくれている住民の皆さんに気持ちよく力を発揮していただくために、けして手を抜かず、努力は怠らなかったつもりです。そのような1年だったからこそ、しっかりとここに記録しておきます。

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土祭は、当時の総合計画「ましこ再生計画」に基づき計画された事業です。簑田は、2009年は少しだけ広報のお手伝いとボランティアで。2012年と2015年は準職員/任期付職員という立ち位置で関わってきました。立ち上げのプロデューサー馬場浩史さんが、2013年に他界された後、3回目の土祭ではプロジェクトマネージャーを務めました。再生のためにだからこそ、その検証と総括はきっちりと行わなければいけません。事務局時代も、試行錯誤の連続で、検証や総括も不十分であり、4回目以降を行うのであれば、まずはその再点検から、そして、これまでの積み重ねを生かすことで、公金使途のムダをなくす、という申し送りをして、2016年3月に役場を離れています。
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そして、2018年。事務局から4回目の土祭を開催するとの連絡があり、広報業務の依頼を受けました。が、開催決定のプロセスや、もろもろに共感できず、依頼をお断りしました。
2021年の今回、広報業務の依頼が、風景社にありました。2009から2015のアートディレクター須田将仁さん、2018のウェブサイト製作者・大塚康宏さんも「風景社」の組合員です。2018と同様に、コロナ禍での開催決定のプロセスや、そのほか体制など「既に(実行委員長の考えによって)決定されていた」もろもろのことに同意も共感も納得もできない点が多く、ともに広報を担う大塚康宏さんとともに、受けるかどうか、非常に悩みました。
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そして結論としては、今回は「だからこそ」広報業務を受けることにしました。

「地域住民に何をどう還元していけるのか」「公益性をどう図っていくのか」などなど広報の立場からも、実行委員長や実行委員会、そして事務局に対して、問い続けると同時に、新しいチャレンジとして、広報を受託業者だけが担うのではなく「住民が(報酬を受ける創作の担い手として)参加する」、住民参加の広報プロジェクトを立ち上げるため、です。以下、コンテンツごとに概要を記します。

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住民参加の広報プロジェクト
益子町は陶芸や工芸だけでなく、さまざまな「表現活動」を行う人がいます。プロ・アマ、本職・副業、仕事・趣味、有名・無名・・・、そんなボーダーラインも軽々と超えて表現の営みを続けています。今回の土祭2021では、「ひとのつながり」と「新しい創作活動や仕事づくりのきっかけ」を創出することを目的に、報酬の予算をとり、益子のクリエイターたちがメディアづくりに参加する広報プロジェクト「レポーター養成講座」「ウィンドウアート」「ヒジサイノート表紙制作」を展開しました。

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1:レポーター養成プロジェクト
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企画・運営統括・講座の開催・添削指導:簑田理香

レポーター養成講座ワークショップとテキストの一部

土祭の公式ウェブサイトに開設している「ヒジサイブログ」で記事を更新していく担い手を養成し、土祭2021の期間に開催されるさまざまなプログラムを取材して記事を作成していただくという取り組みで、主に下記の3つのことを目的としています。
①単なる外向けのP Rではなく、土祭を住民目線で取材し伝えていただくことで、地域づくりとしての祭りとしての「土祭」の望ましいありようを考える材料を増やすこと。
②レポーターの方はもちろん、その住民目線での記事を読むことで、町内の人も、改めて地域のことを知る機会を増やすこと。
③限られた人数ではあっても、養成講座を受講し記事作成の実践を積むことで、「土祭」以外のそれぞれの活動の場でも活かせる力を身につけること。結果として、益子町全体の情報発信力の底上げにつなげていくこと。
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実施概要
①公募:2月1日の自治会回覧で募集をかけたところ7名の方にご応募いただきました
②3月から4月にかけて、テキストやワークシート、他のレポート事例、ガイドラインなどのテキストを作成し、ワークショップ形式の「養成講座」を4回開催しました。
③5月から秋まで開催される企画プログラム一覧を、レポーターさんの希望を取りつつ、担当を決めていきました。1人、15本の取材・執筆をこなします
④レポートは、全件、添削指導を行いました。単なる「修正案」の提示ではなく「なぜ、このままだと良くないのか」「どのような文法上の誤りなのか」など、今後の「応用」が効くように、根拠の説明を加えながらの添削指導は、なかなか時間をとられ、仕事が立て込んだ時期は、途中で「こんなボランティア作業、提案するんじゃなかった」と一瞬後悔したことは、ここだけの秘密です。
⑤添削を終えて修正された原稿と写真(レポーターさんが撮影、または簑田などが提供)事務局に提出し、事務局がウェブでアップする、と言う流れでした。

ウインドウアート飯山太陽さんの取材中のレポーター、仁平肇さん
アーティスト・中崎透さんを取材中のレポーター、横溝夕子さん

ヒジサイブログ 
15本@7名。合計105本の添削は、こちらが105本ノックを受けているようなハードさでしたが、皆さん、それぞれのお考えや感じ方など、こちらも学ぶところは多く、後半になるにつれ、添削の必要がない記事も増えてきて、それが励みでございました。皆さま、お疲れ様でした!

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2:ウィンドウアートプロジェクト
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企画・運営統括:簑田理香(風景社)
運営事務局・制作指導:古谷弘子(あられHOUSE)
住民クリエイター6名

4月末から10月にかけて、町内の店舗や施設の窓ガラスに、クリエイターたちが、土祭や益子の風土、今回のコンセプト「未知の日常」から想起する「絵」を描き、まちを染め、通りを彩ります。5月以降は、公募による共同制作者(小学生を中心に)の公募を行い、参加型のワークショップで制作を行いました(感染状況により一般参加はなしで行った回も)

実施概要
会場1:道の駅ましこ
4月23日-6月30日|絵画制作:小野優子&サポーター
6月27日-8月31日|絵画制作:マツナガレミ&公募による参加者
9月26日- 11月14日|絵画制作:堀水小夜&サポーター
会場2:久保邸長屋門
4月28日-7月31日|絵画制作:飯山太陽
会場3:フォレスト益子 
4月25日-6月30日|絵画制作:マツナガレミ&サポーター:T A M A S A
9月4日-11月14日|絵画制作:ながみともみ&サポーター 
会場3:益子焼しのはら
4月27日-7月31日|絵画制作:加藤靖子&サポーター
会場4:Cafe Novel 東側建物
7月3日–8月31日|絵画制作:小野優子&公募による参加者
会場5:ヒジノワcafe&space
7月4日–8月31日|絵画制作:飯山太陽&公募による参加者
会場6:d Agora(陶庫 横) 
7月22日-10月31日|絵画制作:堀水小夜&公募による参加者
会場7:大宿窯
7月24日-11月14日|絵画制作:ながみともみ&公募による参加者
会場8:ましこラボ
9月13日-11月14日|絵画制作:加藤靖子&サポーター

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制作された作品は、どれもどれも、表現のパワーがみなぎっていて、素晴らしいものでした。公募で参加した子どもたちも、クリエイターと一緒に、普段は描いちゃったら怒られそうな「窓ガラス」に思い切り絵を描いたり色を塗れるという体験に、本当に目を輝かせて夢中になっておりました。
学校でも、家庭でもない、塾でもない部活でもない。地域の中で、おもろい大人たちと一緒に「体験」すること。これからも創出していきたいものです。

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3:広報冊子「ヒジサイノート」表紙制作プロジェクト
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アートディレクション/デザイン:須田将仁(風景社)
企画・編集・取材・執筆:簑田理香(風景社)
表紙制作:1号:矢津田貴慧さん、2号;飯山太陽さん3号:矢津田玲理さん、4号:加守田琳さん、5号:小仁所健太さん
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土祭では、2009年の第1回から「公式ガイドブック」を制作していますが、今回は、新型コロナウィルス感染拡大によるさまざまな配慮などから、会期を秋に集中させるのではく、分散型の日程が組まれました。それに伴い、紙媒体での情報発信も1冊のガイドブックにまとめることが難しいという問題が生じ、そこをポジティブに転換して生まれたのがこのプロジェクトです。「4月から会期中に、数冊の小冊子を(コストも落として)制作しよう。その数だけ、表紙制作に関わってくれる人も起用できる。益子の若い世代に、アートディレクターと協働してのメディアづくりに参加する体験の場を提供しよう。有償インターンシップ的な機会を創出しよう。」という趣旨です。
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表紙制作については公募という形は取らず、20歳前半の若手を中心に5名の方にお声かけさせていただきました。今後、「レポーター養成プロジェクト」や「ウィンドウアートプロジェクト」とともに、地方でのメディア制作の仕組みづくりやクリエイターズバンク的なネットワークづくりにつないでいけたらと言う考えもあり、土祭終了後に、ヒジノワで実現させたのが「クリエイターズファイル展Ⅱ」です。当ウェブサイト内での記事はこちら。

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表紙と巻頭記事の連動:ヒジサイノート(A5/16P)内容
ヒジサイノートの内容については、土祭のプログラム紹介だけではなく「日常の益子」を伝える視点から巻頭に4〜6ページ前後の記事を組み、そのコンセプトと、表紙で制作してもらうイラストのテーマを連動させました。
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1号:巻頭記事「再生の物語」土祭2021メインビジュアルの写真に描かれた西明寺の古木と撮影者物語|協力:馬場真海さん
表紙:テーマ「再生」矢津田貴慧

2号:巻頭記事「つちとひの物語」倉見沢古代窯跡と今回の企画「つちかまうつわ」の話。|協力:菊井和美さん、阿久津忠男さん、大塚一弘さん、岩見晋介さん、栗谷昌克さん
表紙:テーマ「つち」飯山太陽

3号:巻頭記事「手の仕事の物語」町内の古道具店主と工芸作家に聞く「手の仕事の痕跡」の物語|協力:内町工場、antique道具屋、イチトニブンノイチ、わらたに 
表紙:「ものをつくりだす手」矢津田玲理

4号:巻頭記事「朝の時間の物語」若い農家夫婦と、トレイルランナーの拠点でもあるカフェオーナーの物語|協力:仁平佑一・彩香、カフェマシコビト 
表紙「朝の時間」加守田琳

5号:巻頭記事「ひととひとの物語」益子参考館での古民家修復から考える、ひととひとの共同作業について|協力:濱田雅子、望月崇史
表紙「ひととひと」小仁所健太

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4:ポスター・D M
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アートディレクション/デザイン:須田将仁(風景社)
写真:馬場真海(1994生まれ・益子町在住)
コピー「アラワレル、未知ノ日常」:簑田理香(風景社)
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5:公式ウェブサイト
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アートディレクション:須田将仁(風景社)
構成・デザイン/構築:大塚康宏(風景社)
構成・編集・一部執筆:簑田理香(風景社)
ヒジサイブログ取材・執筆 :7名の住民レポーター

最後に
以上、かなりの長文による記録。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
「未知の日常」と言うコンセプトコピーは、益子町観光商工課のブランディング事業と土祭2021に通底させるものとして提案させていただいきましたが、そのことについて、少し。

今の、このような時代だからこそ、日常を大切に。例えばメディアに掲載されるとか、新聞で話題になるとか、そんなことより、日々の暮らしこそ大切に、「本当の意味」での豊かさを大切にできる町でありたいからこそ、日常に光を当てましょう、というメッセージを込めています。そして、そのメッセージは、2019年9月からほぼ1年にわたるブランディング部会(個人事業主中心)でのワークショップや意見交換の積み重ねから導き出されたいくつかのキーワードを束ねて創出したものです。

土祭についても、他の観光行政についても、大見えを切って打ち上げる一発の「花火」で良いのでしょうか、という問いでもあります。地域を伝える広報は、ただの情報発信でも、身の丈以上に「盛ってみせる」プロモーションでもあるべきではないと考えています。
広報という活動そのものが、「自己検証」であり、「自己批評」となり、公益性を帯びた学び合いの場となるような・・・その可能性を今後も探っていきたいものです。