メインビジュアル画像

編みなおす、ということ。

2016年 書籍の編集・取材・執筆

今年2016年の1月に依頼を受け、編集と取材・執筆を手がけた書籍について、そのご案内を兼ねて「編集とは」についての私論の1つを整理しておきます。

デザイン事務所TRUNK さんから「ちょっと難しい案件があるんですけど」と、相談=依頼を受けたのが1月のことでした。益子スターネットでの新春企画、毎年恒例の工芸品バイヤー日野明子さんの展示販売会に行き、そこで笹目所長と合流。お茶をしながら、「難しい案件」の内容を伺う。
小山市の医療法人でスタッフの要となって働いていた「野口ひかる」さん。以前、全摘していた胃癌からの再発転移がわかり、葛藤を抱え闘病しながらも、現場に関わり続けていた野口さんの気持ちを支えるためにインタビューで本を作ろうという理事長夫妻からの企画。2015年にTRUNKさんと当初の担当ライターさんで野口さんへのインタビューと理事長夫人でドクターでもある坂口千春さんとの対談を終えた後、野口さんはご自身の生をまっとうし、逝去されたそうです。それが、2015年の7月のこと。

その後…野口さんの生前に収録したインタビューと対談の生原稿をもとに、どのような構成で、どのように編んで本にしていくか。そこで、頓挫してしまっているとのことでした。途中からの引き継ぎであり、お会いしたこともない方の生死というテーマでもあり、また、私自身が癌で他界した母との終末期の関わりにおいて、いくつもの後悔を引きずっていることもあり、最初はお断りすることも考えましたが、一度は整理されたというインタビューの原稿を拝読していくうちに、「編集」の「使命」つまり、私の「役割」が少しずつ見えてきました。

さて。
「集めて編む」と書く編集とはどのような行為でしょうか。もう30年近く、この界隈で仕事を続けてきて、私なりの言葉で、そのあたりを説明できるようになってきました。よく言われるのが、その熟語の成り立ちから
「情報を集めて、そこに何らかの価値付けをして、情報を編む」ということです。多く読み継がれているという、著名な編集者の本では、編集の定義が「企画を立て、人を集め、モノをつくる」こと、と書かれています。私見では、それはどちらも「前提条件」のようなもので私が理想とする「編集」の定義ではありません。
(ひとそれぞれですからね)

さて。
依頼を受けた書籍の話に戻ります。

「編集」という行為を行う前に、この案件では「依頼された企画」を「編集者としての自分」なりの目線で補強していくことが必要でした。

・発行元となる医療法人のスタッフと要であった人について、
死後に制作される書籍(つまり自費出版)
・当初は、故人の士気を高めるために企画された。
・企画者と故人は、公私ともにとても近しい関係。
・依頼を受けたTRUNK所員の方々と故人や企画者も近しい関係。
このような経緯をもつ企画と、いったんは整理された原稿は、私が引き継いだ時には「故人を偲び、故人の仕事への思いを関係者が引き継いでいくための本」という地点で、膝を抱えて座り込んでいるようでした。発行元の医療法人の意図としては、
・デイサービス施設や訪問診療の利用者の方々にも読んでいただきたい。
・秋に開催予定のシンポジウムでも配布したい…
という思いもあるということも伺いました。

つまり。きわめて「私」的な地点から始め(そのエモーションを薄めず)「公」へと広げていく必要があります。「個の日々」のことを「普遍的なテーマ」として、世に投げかける必要があります。野口さんのインタビューには、そのような必要性に十分に応じられるほどの、「意志的な生き方」が残されていました。それは、つまり。編集者として関わる制作物が、この世に生まれる「意味」が確認できた、ということでありそれが「編集者が、クライアントさんの企画を補強する」ということでもあります。

そして、ここから、「編集」が始まります。
私の場合、編集とは「方向性をもった骨格をつくる」ことです。この世に生まれる意味をもった企画は、届けたい人に向かってこの情報過多の海の中を、泳いでいかなければなりません方向を定めるには、そのように泳ぐための骨格が必要です。骨格は、誌面には「構成」として落としこまれますが、同じ骨が素材としてあっても、編集者によって、それぞれへの価値のつけ方や、組み合わせ方、関節でのつなぎ方、見えるところに配置するものしないもの…などは、違ってきますし、…みんな違ってみんないい(byみすず)とも言えます。あくまでも、評価の基準は、「この世に生み出される意味があるとしたら、それが編集の力によって、どのくらいまっとうできるか」という、目標に対する達成度だと言えます。

今回の書籍の構成では、さきほど書いた「この世に生まれる意味」をまっとうするには「骨」が足りません。「ご家族(ご主人と息子さん)へのインタビュー」をあらたに提案し、お話を伺いました。
*個(私:野口さんののこと)を公(あなた:読み手のこと)につなぐ大切な役割を担います。
また、医療法人の坂口さんからは「野口さんの同僚であった若いスタッフたちの話も聞いてほしい」との依頼がありました。
*故人を偲ぶ文集的なものにとどめないように編集上の工夫が必要です。

構成する要素を整えながら、この書籍での必要性を感じ、最初と最後に、キャッチコピー的なテキストを入れることにしました。(「この書籍がこの世に生まれた意味」を、メッセージとして読み手に伝えるため)

さて。
このように考えながら組んだ骨格(構成)です。

[タイトル] 終章を生きるということ–−野口ひかるの伝言−−

[巻頭コピー]
最後の一瞬まで、私が「私」を生きるために

[はじめに] 
妻を亡くして三ヶ月後の夫の言葉や活動をモチーフに野口ひかるさんの紹介

[メインの章]
野口ひかるの伝言
・野口さんインタビュー・野口さんと坂口さんの対談・夫へのインタビュー・次男へのインタビュー…を主題ごとに組み替えて、ミックスした構成に。たとえば「ファミリーカウンセリングによる家族の再構築」をテーマに、妻の思い、夫の視点、支える医療者の語り…など複数の視点を交差させる。この章の最後には、次男のインタビューから「母に残された課題」について語っている部分を掲載。その意図は「故人が残した未来」も感じてもらうこと。

[サブの章]
 チームからの伝言
・野口さんを支えたスタッフ(ケアマネ、理学療法士、看護師、介護福祉士)の聞き取りは、座談会形式だったが、構成に落とし込む際に「読み手にとって介護・医療の現場で、どのような肩書きのスタッフが、どのように利用者さんと関わるのかを伝える意図も加え、一人ずつの発言のようにまとめ直し「ひとり一見開き」という誌面に。

[巻末コピー]
最後の一瞬まで、あなたが「あなた」を生きるために。

[おわりに]
主治医からのメッセージ、企画者からのメッセージ。

………

さて。11月に納品された後、発行元の医療法人さんから、嬉しいメールが届きました。
・この本を手にされた小山市長からの提案で小山市立図書館や分館、公民館において頂けたこと。
・館長さんからは、 国立国会図書館へ納本するようにとのお言葉をいただいたこと。
・栃木県内の図書館リストを下さり 連絡するようにとも言って頂けたこと。
必要とされている人のところへも、方向性をもった骨格で、泳ぎ始めているようです。実物がないところでの文章だけの、グダグダした説明で、かなりわかりにくいかと思いますが、編集という考え方の私論が、なにかしらの参考や手がかりになれば幸いです。機会がありましたら、図書館で探してみてください。

『終章を生きるということ 野口ひかるの伝言』
企画・作成|特定非営利活動法人おやま医療介護研究会
監修|坂口千春
デザイン|株式会社トランク
写真|仲田絵美
編集・執筆|簑田理香

追記
骨格にどう肉付けしていくのか。
編集する行為と、デザインする行為の関係は。
もろもろ、続きは、また。