2022/2023
繰り返す「戦前」を
どう生きるか(前編)
エルピス、松本清張、
日本の黒い霧
家族の話をしようと思う。
.
写真は、亡父のアルバムにあった古い一枚。右から大津留久(長男)、大津留昇一(次男・父)、大津留幸夫(三男)。いずれも戦前戦中に福岡県福岡市で生まれている。戦後に生まれた大津留真(四男)は、この写真にはいない。
その後、長女も生まれたそうだが、出産後に母親が心臓発作で他界し、戦後の乏しい食料事情の中で乳飲み子も育たず1歳を迎える前に、男4人兄弟の可愛い大切な妹は、母を追ってか空に昇ってしまったと聞いている。
.
参考情報:そう、私が生まれ持った姓は大津留で、大分にルーツがあるらしい。最初の結婚で簑田となり、その後、離婚する時に、父親の戸籍に残る娘2人(当時・中2と小4)と同じ姓が良いだろうと、新しく簑田の戸籍をつくっていた。3年前に再婚して戸籍上の姓も変わったけれど、仕事名としてはそのまま簑田で通している。
.
現在の話をしよう。
.
家庭では、夫婦でどんな話をしているの?とたまに聞かれる。廣瀬くんと簑田の、外から見えるキャラの違いからなのか、そんなところに関心を持つ人がいるようだ。どんな話?と聞かれたら、政治の話と暮らしの話をしているとしか答えようがない。過去の政治も現在の政治も日本の政治も諸外国の政治も私の暮らしも家族の暮らしも地域社会の暮らしも、全て不可分でつながっているのだから。
.
ふたりの娘は、それぞれ都内(局長・長女)と横浜(隊員・次女)で働いていて、年に1度か2度は顔を合わせるが、今年は2人の帰省のタイミングが見事にずれた。ちなみに、局長と隊員というのは、まあ、あだ名ですね。
.
29日/30日 長女が帰省。
2014年からテレビを持たない生活をしている私に、ドラマ『エルピス』の話をしてくれた。彼女が熱く語ったのは、登場人物=俳優たちの心の機微の描写ではなく、ドラマのエンドロールのこと。ドラマで描かれる冤罪事件の参考文献として9冊の書物がクレジットされたそうだ。その中の「足利事件」を検索しながら、彼女は「飯塚事件」が気になって仕方ないという。飯塚は福岡県の炭鉱で栄えた町で「麻生一族・麻生太郎」の地元。ドラマには、麻生氏を彷彿とさせる黒いハットをかぶった政治家が登場したらしい。
.
飯塚事件は、1992年、福岡県飯塚市で小学生の女児2人が殺害されたもので、犯人として逮捕された久間三千年さんは一貫して無罪を主張するも、2006年に最高裁で死刑判決が確定し、家族と弁護団の再審請求準備中の2008年10月に死刑執行されてしまった。判決から執行まで2年足らずという異例のスピード。法務大臣が死刑執行にゴーサインを出した当時の総理大臣は、麻生太郎。麻生は、2008年9月から2009年9月まで自民党総裁/内閣総理大臣の座にあった。
.
>日本弁護士連合会「飯塚事件」
https://www.nichibenren.or.jp/…/q12/enzaiiizuka.html.
そして、飯塚市は、父・大津留昇一と終戦後に熊本県人吉市で出会って家庭を持った、母・竹村キミ子が、満洲に渡るまで生まれ育った街でもある。母の父は炭鉱会社の経理部で働いていて満州の炭鉱への転勤で渡り、戦後は苦難の道を経て九州に引き揚げてきた。母は多くを語らなかったが、母の母は、引き揚げ道中の凄惨な体験と、いい暮らしをしていた満洲と戦後のギャップから心を乱し家庭放棄。母が当時小学生だった弟を引き取り、ともに熊本へ流れ着き、旅館に住み込んで働きながら弟を中学に通わせていたと聞く。
.
長女を宇都宮駅に送る途上で、一緒に映画『すずめの戸締り』を観た。あちらにもこちらにも増え続ける廃墟群と自然災害で一瞬にして失われる人の営みの蓄積。社会学徒として、地域づくりに携わるものとして、新しい命題を提示された気がしている。
.
12/31_1/2 次女が帰省
さっそく、廣瀬と3人で、奥間政則さんの講演会「国策が生む差別を考える—沖縄の基地問題とハンセン病問題の当事者として」について語り合う。12/16に宇都宮大学国際学部清水研究室の公開講演会の講師で来ていただいた奥間さんは、彼女が所属するフェアトレード団体「ネパリ・バザーロ」を通して2021年に知り合い、清水研究室にお繋ぎさせていただいた。話題の中心は、宇都宮で、横浜で、若い世代が、奥間さんの講演内容をどう受け止めたかということ。そこに少し、希望を見出せた思いでいる。
.
翌日、NHKプラスの仮登録を申し込み、ノートP Cからプロジェクター経由で壁に映像を映して、「NHKスペシャル未解決事件・松本清張と帝銀事件 第1部ドラマ 事件と清張の闘い」そしてドキュメンタリーとしての続編「第2部 未解決事件 File.09 松本清張と帝銀事件 第2部 74年目の“真相”」を観た。飯塚事件同様に、冤罪の疑いが晴れぬ帝銀事件。劇中、松本清張が「日本は、本当に独立したのか!」と強い口調で誰に対してともなくぶつけていた。ざまざまなリサーチや今回初めて日の目をみた過去の記録からは、日本陸軍幹部とG H Qの「ギブアンドテイク」が浮き彫りになる。そしてその構造は、今も続く。そんな国に生きている、そんな国をつくってきたことに、自覚的に生きるか、無自覚に生きるか、ひととしての生き方が問われている。
.
第2部は最後にナレーターが、松本清張が書き残した言葉を紹介して終わる。「世間の大衆が、真犯人の平沢に憎悪の目を投げつけたのは当然である。彼らは、新聞による報道だけで、詳細を知らされていない。警視庁の主観が新聞の主観となり、新聞の主観、それが読者の主観となり、世論の主観となるのである」.生まれ育った家の父の本棚には、司馬遼太郎、藤沢周平と並んで、松本清張全集があり、私も高校に上がった頃から少しずつ読み始めていた。父は、清張が幼少期を過ごしたという下関で終戦を迎えた。軍需工場へ学徒動員されていて、線路を歩き続けて福岡に帰ったと聞いたような気がするが、詳細は忘れてしまった。
.
徹子の部屋か何かで、タモリさんが「新しい戦前」という言葉を使ったようで、Twitterには、#新しい戦前にしないことは私たちの責任 というハッシュタグが生まれている。新しい、というか、繰り返される戦前でもある。
.
「繰り返す戦前」をどう生きるか。2023年は、否応なしに個々人にその責任が問われる時代になる。
.
私はといえば、担当している業務(全てが社会的な意味があることと理理解している)はもちろん、自主活動も全て、「政治と社会と個人の暮らしは地続きだ」という全くもって当たり前のことに「自覚的」に動いていきたいと思う。あちらこちらでお世話になっている皆様、今後も変わらず、どうぞよろしくお願いします。
.
新年早々長文(いつもだけどね)でありましたが、後編があります。また、追って。
.
追記
N H Kプラス:NHKスペシャル配信番組仮登録で1ヶ月は視聴できます。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/plus/
.
追記2そういうわけで、隊員(次女)を宇都宮に送り、書店で松本清張のノンフィクション『日本の黒い霧 上・下』(文春文庫)を買い求めて帰宅した。