「風土」。
その概念と言葉と、そしてそれぞれの地域での、その実像こそが、現代社会において最も「無自覚」に「ないがしろ」にしてはいけないものだと思っています。
益子町で暮らすようになり、仕事も企業系の仕事から地域系の仕事にシフトするようになり、そして、2009/2012/2015の「土祭」という、土地の風土に根差した新しい祭りの企画運営に参画する中で、また、地に足をつけて暮らす友人知人たちとの出会いの中で、その考えは常に私の思考と行動のベースになってきたように思う。
2014/2015に(当時は町の職員として)実施した「益子の風土・風景を読み解くプロジェクト」、土地の風土と人と暮らしを伝える地域誌として創刊した『ミチカケ』、2022年からは小山市の田園環境都市ビジョン策定支援業務で「風土性調査」をその基盤として展開しているところです。
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そして、この記事は、新たにご縁ができた岩手県洋野町のこと。
3年近く前、当時、都内の大学院に通っていた小向光さんから、観光と地域振興をテーマにした修論のためのヒアリングを受けました。『ミチカケ』や『土祭』について。彼女とは、その周辺や背景についても、まるで同志のように初対面から話が盛り上がったのを記憶している。現状認識の確かさに軽く感動し、そのせいもあって、こちらもついつい、当時の私の仕事上のモヤモヤを聞いてもらっていたというべきか、そんな感じの出会いでした。
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彼女は、大学院修了後、故郷に近い岩手県洋野町の、fumotoという名前の一般社団法人の職員となり、地域おこし協力隊員の受け入れ研修や町の移住施策、関係人口創出などの事業に携わるようになった。そして代表の大原圭太郎さんと「町の関係人口増加事業」として、「洋野町の風土をあらためて調べ把握し、町内外の人々の共有しながら語り合いを続けていくプロジェクト」推進していきます。代表の大原さんは、地域おこし協力隊OBで、卒業後にfumotoを立ち上げた方。雑誌やメディアにも登場されているので、その活動に注目されている方もいらっしゃるのでは。
fumotoの皆さんは、地域の中に分け入るように、聞き取りや古い写真や文献のリサーチなどを続け、「ゆい」「つぎ」という冊子にまとめ(2021年)、そして、盛岡・東京・洋野町と巡回して、調査の成果パネルや、実際の民具などを展示する「風土展」(2022年秋〜2023年初春)を開催、そして、それらをまとめた図録『風土展』を発行(2023年4月)・・・という、実にしっかりした骨格をもつ取組みとなっていて、ただただ、こちらは頼もしく眺めるばかりだったところに・・・、東京会場での展示でのトークセッションへの登壇と、図録への寄稿のお話をいただいた。だらだらと、このまま語り続ける よりは、図録に掲載した文章を、ここでも共有させていただきます。
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風土展に寄せて
「ゆい」と「つぎ」の先に、おのずと見えてくるもの
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実は、私はまだ洋野町を訪れていない。
とはいえ、「ゆい」「つぎ」という2つの冊子のページを何度となくめくり、その内容をもとにした展示を盛岡会場と東京会場で拝見したことで、既に意識の中に、洋野という風土世界の輪郭が、おぼろげながらも立ち上がっている。そしてそれは、時折、正しさと根拠を常に求められる仕事に疲れた時に、ふっと故郷のように感じられる。
長いこと地域を支えてきた方々への聞き取り。文献調査。地域に残る古い写真の収集と整理。それらをもとに記録集を制作し、展示パネルを制作し、大切に保存されてきた民具や生業の道具とともに展示を行う・・・。こう書くと、それは、各地の郷土資料館などの公的な機関や、郷土の歴史勉強会などの市民のサークルで、ごくごく普通に行われている取組みでもある。ところが、今回の「風土展」は、洋野町の「関係人口増加プロジェクト」の事業を受託している一般社団法人fumotoの若い世代が、その事業の一環として企画し実現したもので、主に都市生活者に向けた洋野町のプロモーション事業ともいえる。
北から南まで、中山間地や漁村から地方の小都市までが、ともに地域の諸問題を解決してくれる(と期待する)「地域おこし協力隊」や「関係人口」を獲得すべくこぞって手をあげ、地域の“いま”を断片的に切り取って繋ぎ、“いい感じ”に情報発信を展開させている昨今において、洋野町は、直球を投げてきたのだ。それも一発勝負の一球ではなく、企画構想から調査、アウトプットまで、地域の方々と丁寧に丁寧に対話と探究を重ねた、積み重ねの成果だ。
さて、これはどういうことだろう。若い世代が、岩手県最北の小さな洋野町から「風土展」を通して世に問うた意味は、どういうことだろう。冊子を読み、展示を見て以来、私はずっと考え続けている。
たとえばひとつには、本人たちが意図していないにしても、社会の軽薄短小な傾向へのカウンターなのかもしれない。地味なものよりキラキラしたもの、真面目なものより軽やかなものが歓迎される社会の空気。モヤモヤと悩みながら問いを立てていく時間よりも、鮮やかに答え(らしきもの)を出して課題を解決することに重きが置かれる風潮。風土にしても「風の人と土の人が交じり合って」とエッセイ風に語られてしまう軽さ。それらひとつひとつに対して、「ここらで少し、地に足をつけてみませんか?」という直球を投げてきたように思う。
たとえばもうひとつには、現代人が「迷子」にならないための足場を提示してくれたということなのかもしれない。
私ごとになるけれど、調査や取材に車で出かける時、年に数回、一瞬、迷子になってしまうことがある。自分が向かっていたはずの方向を見失ってしまうのだ。たとえば、大型量販店やフランチャイズの飲食店や規格型住宅がずらりと並ぶ通りを車で走っていて、その交差点にあるコンビニに立ち寄る。店内から出てきて車で出ようとしても、周りに広がる風景を前に、自分がどちらから来て、どちらに向かっていくと良いのか、わからなくなってしまうのだ。
地面はコンクリートやアスファルトで覆われ、水の流れにも蓋をされ、元々低かった土地にも盛り土がなされ、地域にあるものではなく物流やインターネット回線で運ばれてくるもので経済が回っている街では、目の前の風景に溢れかえる情報量の中で、本当に必要な情報は見えてこない。その街にも確かにあるはずの風土が覆い尽くされてしまっている。
風土とは何か。いくつかの答えがあると思うが、私は専門家たちの知見註や地域での聞き取り調査などを通して、また、暮らしを重ねるなかでの多くの人との出会いから、実感を持って「その土地の自然環境と人の営みの相互の関わり合いの総体」が風土であると理解している。先人たちは、その土地に固有の自然環境に働きかけ、利用しながら生業や暮らしをつくり、また、土地の自然環境に触発され感性を育み、知恵を磨いてきた。そのような自然環境と人の営みの相互の関わり合いの積み重ねで、風土は形づくられ、そしてこれからも更新されてゆく。
どちらから来て、どちらへ向かっていくと良いのか。何を道標とすれば良いのか。
この問いは「まち」や「地域」にも言えることかもしれない。洋野町の「ゆい」「つぎ」の冊子と展示では、町がどのような道のりを歩んで、どのような積み重ねのもとに現在があるのかが示された。そこには、過去の写真から読み解く、かつて洋野町で生きた人々の声や、現在を生きる人々の地域へのまなざしが丹念に描かれている。まさに人間中心の風土の記録であり、それを把握し共有することで、これからの方向性は、「おのずと」見えてくるのではないかと思う。おのずと。つまり、他の地域の真似をしなくても、流行りに乗らなくても、横文字だらけの言葉で意味があるかのようなプレスリリースを作文しなくても、共有財産として持つことができた「風土への理解」が道標となっていくのではないだろうか。その歩みの途上には、これから新しく洋野町に関わる人たちとともに生み出す、新しき「ゆいこ」の可能性も見えてくるように思う。
註:薗田稔編『神道』(弘文堂、1988 年、総 372 頁)〜「風土とは、地域の自然に人間が暮らしと生業を通して働きかけることでかたちづくられる、人々が生きる環境のこと」
内山節『主権はどこにあるのか 変革の時代と「我らが世界」の共創』(農文協、2014年、43頁、「東北農家の二月セミナー」講演録)〜「主権は結び合いの中にある、あるいは関係性のなかにある。(略)関係性の積み上がったものを風土と呼ぶならば、主権は風土の中にあると言ってもよい。(略)かかわり合いが「我らが世界」を創っていく。そこに主権があるという展望を持ちながら、変革の時代を生きていきたい。」
以上、図録からの転載終わり
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展示@東京会場の期間中、会場でお話をさせていただいたイベントの記録を残しておきます。
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2023年1月21日:東京・芝浦 SHIBAURA HOUSE
岩手県洋野町「あしもとの風景をつなぐ展」
トークイベント「風土・風景を紐解く。」
お話のお相手は、私の師匠級の西村佳哲さん。
主催者からのS N Sなどでの紹介では「お二人にお願いした背景には、西村さん、簑田さんの考えや取り組む姿勢から学んだことや、参考にさせていただいた部分が多々あったからです」と、あります。いや、逆に、若い彼らから参考にさせていただいくことも多いのですが・・・。当日は、参加者の方たちのお人柄がじんわりくるような場の空気と、西村さんのリードで、楽しいひと時となりました。この時にお話したことをベースに(少し格好をつけて)まとめたものが図録への寄稿となっています。
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風土を紐解き、共有しながらの新しい「ゆい」の創出。
これからの展開を楽しみにしています。
洋野町の「ヒロノジンプロジェクト」を伝える「ひろのの栞」展示&トークのプレスリリースhttps://hirono-shiori.jp/news/fudo-tokyo/
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