あゆみ05|ヒジノワで報告会開催とお礼レポート|2023年11月
ヒジノワのメーリングリストに登録している方や工藝市集に出品してくださった方に呼びかけて、11月18日に大渓工藝週参加の報告会を開催しました。私たちが大渓で、見て、学んで、交流させていただいてきたことを、多くの写真を投影しながらお話をしました。大渓のパンフレットや、購入してきた博物館発行の本なども、自由に見ることができるように並べ、参加のみなさんは、興味深そうに、手にとったり眺めたりしていました。もちろん、お土産にいただいたお茶と豆腐のお菓子も、その報告会で美味しくいただきました。参加者の中の5名が書いてくれた感想、現地を訪問した鈴木稔、高田英明、鈴木潤子、簑田の感想やお礼のメッセージも紹介します。
また、これらの文章は、大渓の皆さんへ「お礼のレポート」として(日本語・繁体字の併記で。訳は現地でもお世話になった通称リンちゃん)お送りしました。後日、とても嬉しい!とお返事が。ここまで丁寧にやりとりを重ねることで、交流も深まると確信!
1|大渓に送った簑田のお礼レポート
Chouseと博物館のみなさま、街の皆様のあたたかいおもてなしを思い出しています。初めてのイベント期間中で、とてもお忙しい状態だったと思いますが、そんな素振りは見せず、いつも笑顔でもてなしていただいたこと、感謝の気持ちでいっぱいです。オンラインで2回、あとはメッセンジャーでのやりとりだけでしたが、本当に古くからの友人のように感じさせていただきました。このご縁を大切にしていきます。
日本の「地方創生」を参考に、台湾でも2019年が「地方創生元年」として位置付けられて、各地域で地域の歴史や資源を生かした地域振興の動きが加速している。・・・これは、2020年の1月に、イーピンさんと待ち合わせて観に行った、渋谷ヒカリエで開催されていた「2020台湾地方創生展」の資料に書かれていましたし、ネット記事でも見聞きしていたことです。今回の大渓訪問で、あらためて強く感じたことは、「いや、逆に日本の諸地域は、台湾の地方の動きにこそ、学ぶべき」ということです。「なぜ、そう思えたのか?」について、滞在中の感想を交えながら、記しておきます。
◎自分たちの地域の風土への尊厳と理解
行政(桃園市大渓)も民間も、地域振興のベースに、地域の風土(歴史・地理・文化・生活)の理解があり、だから、ブレがないし、しっかりとした軸があると思えました。地域の風土の理解を、市民にも観光客へも広めていく役割を担っているのが、大渓木藝生態博物館なのだと思いますが、ホームページも、出版物(定期刊行物『一本大渓』、『風土渓望-The Prospect of Daxi Living』)も、博物館で行われている様々な教育や文化振興の事業も、徹底した強さを感じています。
◎在るものを有効に活用する
風土への理解や経緯があるからこそ、古い建物を取り壊して新しい建物をつくるのではなく、大渓木藝生態博物館も老街も、在るものを保存し、整備して活用しているのですね。
また、短期間の滞在でしたが、大渓工藝生態博物館は、地域の人たちに開かれている場所になっていると感じました。建物群をつなぐランドスケープも、とても自然な感じで、ベンチに座って、お弁当を食べていると親しい親戚や友達の庭にいる様な気がしましたし、また、公園の様でもありました。エリア全体が、誰に対しても「ウェルカム」と言っているようです。そんな地区で育つ子どもや若者たちは、地域で大切なものは何か、本質的なところで理解ができる大人に育つと思います。
◎行政も民間も、まちづくりの仲間という意識
大渓でのオープンファクトリーや老街エリアを案内していただいたとき、陳さんが、様々な人を紹介する際に「まちづくりの仲間」という表現を使われていたのが、印象的でした。工芸を生業にしている人の工房や、それらを展示販売する店舗などに「街角館」の木の看板がかかっていました。そこには、桃園市が発行する骨太の月刊広報誌『桃園』(無料配布)や博物館のチラシなども置かれていて、博物館の分館の様でもあり、まちなかでの情報発信や交流の拠点となる案内所の様な役割を果たしているのですね。
また、陳さんは、こうもおっしゃっていました。「この街角館の取り組みは、3年間で市からの助成が終わるので、その後、民間で自立する仕組みを作りたい。また次の助成金ができるかもしれないけれど、それは新しいプレーヤーに譲りたい」という考えは、自分の代の仲間に固執せず、街に新陳代謝を起こすことを考えているようで、とても参考になりました。
◎有機的につながる、景観と建物と事業、そして、ひと。
その結果、更新されてゆく大渓の風土。
振り返ってみると、総じて、大渓の地域振興、まちづくりというものは、歴史的建物群を活かし、地理的・歴史的な風土を生かし、歴史ある木工という工藝を大切にし、そこにつながる農業と食文化や教育などが、とても有機的にリンクしあっているように見えました。その成果として、今後、おのずと観光の面でも盛り上がってくるのではないでしょうか。
また、その有機的な繋がりの上に、陳さんが率いるChouseのように洗練されたクリエイティビティが高い人たちの活動が活発になることで、大渓の風土は良い方向へ更新されていくのだと思います。
最後に、オープンファクトリーで最も印象的だった「協大木器行」で伺ったお話を伝えます。店内に入って印象的だったのが、製作された神棚が塗装をしていない無垢のまま置いてあること。その理由は「お客さんには、どれほど立派な木を使っているかを見てもらって、ヒビや亀裂が入っていないことも確認してもらう。それで納得して買ってもらうことに価値を置いているから」とのことでした。商談が成立したら、その人の名前を彫って、それから塗装をして仕上げていくそうです。木の質はもちろんのこと、木を扱う秘術にも自信を持っていらっしゃるのでしょう。また、経営については、「家族プラス2、3人の職人で経営していて、職人にきちんとお給料を払うために良いものを作り高く売ることを意識している」とのことで、「我々がやるべきなのは、イケアのようなものを作るのではなく、我々でしかできないことをやること」ともおっしゃっていました。
これらのお話は、地方創生の良い例と悪い例の比喩のようだとも感じています。良質なものではないのに、よく見せるために表面だけ塗装をして、見た目を整える・・・。他の地方で成功すれば、自分たちがすべきことではなくても、自分の地方でも真似したがる・・・。そんな地方創生、地域振興がまかり通らないように、これからも大渓の皆さんとしっかりと学びあって交流を深めていきたいものです。(簑田理香)
2|大渓工藝週に参加したメンバーの感想
①鈴木稔さん
大溪工藝週について良かった点を挙げます。
・オープン・ファクトリー、座談会、マーケットなど、人が出会う場や繋がる機会が多いイベントが組まれていた。
・イベントのビジュアルが工房や工場のパネル、展示会場や講演会場のパネルや展示、パンフレット、マーケット会場の出店者看板など目立っていた。
・博物館や老街など古い建物を残して利用している。
・朝市、小さな個人商店、飲食店、病院など生活を感じる街並みが残っている。
・寺院、廟が街中にあり、参拝する姿を見かける。
・川、夕日、吊り橋、公園、農園など自然を感じる場所が多い
・ゲストへのホスピタリティが素晴らしい。
大溪は自然が豊かで生活が多様で歴史と文化を感じる街でした。経済性、利便性、効率などの世の中の大きな流れに対して、オリジナルな道を探っている印象でした。未来の環境、働き方、生きがいなどの問題に対して、哲学、思想、価値が必要だと思います。それらを土台に大溪の街づくりが行われることを期待しています。
②高田英明さん
今回の大渓訪問をさせていただき、関係者の皆様には言葉では言い表せないほど感謝いたしております。私たちの益子よりも大渓のみなさんが、横の繋がりを大切にしながら楽しんでおられたようにおもいます。
大渓は木材の流通運搬や、木工で栄えた場所ではありますが、多種多様で年齢層の幅の広い作り手やクリエイターがおられて、交流されていて。とても私の理想とする地域でした。
私達も、大渓の皆さんのように、横の連帯と縦への尊敬をしながら、暮らしやすく、楽しめる場所を作っていきたいです。改めて、自分が向かうべき方向に灯りをてらしていただきました。
*添富木業社
益子や近隣にあるような製材所よりも規模が大きく、大きな木を挽くことができる。木を載せる台 が地面より一段下がっていて、フォークリフトは使っていない。材木の移動は上から吊 る方法で行っていた。日本だと挽いた材を受けるローラーがあることが多いが、ここにはなかった。たぶん手で受けるのではないか。益子にも小さな製材所でそのようなとこ ろはあるが、このような大きな材を製材後に落とされるのをどのように受け取るのだろう。
*イベントのブース設営
Chouse の皆さんの仕事ぶりは素晴らしかった。マーケットのブースも、仮設テントのような形だけれど、しっかりと木製で作ってあり、素晴らしい。設営は業者さんに行ってもらったがようだが、解体はChouse の 20 代のスタッフの女の子たちがおもむろにハンマーを持ってきて解体していたのが印象的だった。他のことでも、Chouse の若いスタッフたちは、まだ入社して数ヶ月の人も多いのに、やりとりも丁寧だし、笑顔で嫌な顔一つせずに、仕事も早くて素晴らしかった。最後のイベントの片付けを手伝わせていただき、Chouseのファミリーになれたようで嬉しかったです。ありがとうございました。
③鈴木潤子さん
報告会を開催して、台湾滞在中の心づくしのおもてなしを思い起こし、あらためて感謝の気持ちでいっぱいになりました。C houseのスタッフ・お仲間の間でのやり取りやいただいたご配慮に、「意気に感じる」という言葉を思い浮かべていました。
・意気に感じる:相手の何かをしようとする心持ちに、自分も何かをしようという気になること。(weblio辞書) 何かをしたいと思うこと。そのために誰かに助けを請うこと。請われたことに応じること。そしてみんなで力を合わせて実現していくこと。たとえそれが無理難題でも飄々と解決に努め、それら全てに幸福を感じ楽しんでいるようでした。それぞれの人たちが、自分の置かれた状況(請い、請われるという状況)を誇りに感じていることが伝わってきました。これらは私たちが端折ってきてしまった気持ちかもしれないと思いました。その喪失を認識できて残念にも思えたのはよかった。一度捨ててしまったものを取り戻すのは本当に難しいですが、進む先でまた別の形で得ることができるかもしれないと思うからです。
人と集うこと、歓談することが正直苦手で、つい尻込みしてしまうのですが、こんな陰キャこそ役に立てることがあるかもしれないと信じて、そうした場にも極力繰り出していきたいと思っています。
3|ヒジノワでの報告会に参加しての感想
④伊藤 奈菜さん
里山ランドスケープデザイナーという肩書きで、里山の風景を未来につないでゆくための活動をしています。最近では、ヒジノワタケ部を結成して、仲間たちと荒廃した竹林を整備しています。大渓の報告会を聴いて、先人から受け継いだ古いものを、現代に合うようにアップデートしつつ活用されていること、そこに真の文化継承を感じました。風景とは、大渓のみなさんのように自分のまちを愛して、そこにあるものを大切に受け継いでいくことでつくられてゆくものだと思います。益子でも見習うべきことがとても多いと感じました。ゆくゆくは、益子の風景を、愛をもって大渓のみなさんに紹介したいです!近々お会いできるのを楽しみにしています。
⑤船越弘さん
私が陶芸、妻が布や革を使った品物を作っています。古い建築を生かした使い方が良かったです。これからも交流を通じて情報を交換できたらと思います
⑥南口 かおりさん
こんにちは、私は益子町の窯業技術支援センターの卒業生で、今駆け出しで陶芸家を志している三十代の女性です。今回の報告会に夫婦で参加させて頂いて、台湾のとある町の方たちの暮らしの風景や工芸、ものづくりの情景を通して益子町との共通点があるように感じて興味を持ちました。私が感じた共通点は独自のものづくりを大切にしている町だということと観光客や人へのサービス精神です。
また、言語だけでなくゼスチュア、食文化や建築、工芸、というコミュニケーションを通して人と人が繋がっていく様子に平和なひとときを垣間見ました。木工技術や樹齢千年の大木を大切に保管されているのが印象的で、尊敬の念を抱きました。陶芸家の方達が一つの場所に集まって楽しんで作陶されておられる姿も芸術的で素敵な光景だなと思いました。個人的には珈琲が好きなので、お豆腐を一緒に添えて出されているのに最も興味を持ちました。台湾の食べ物がどれも美味しそうで、その工芸の町にもいつか又行ってみたいと思いました。朝市というのも日本では見たことないものばかりで、刺激的で愉しそうだなと思いました。「町」同士の交流は「国」という枠を取り入れながらも『文化』で繋がっていく、人と人が歩み寄るきっかけとなるような温かな活動であるように感じました。台湾のお土産のお茶菓子を戴きながらの楽しい報告会でした。ありがとうございました。
⑦廣瀬俊介さん
ランドスケープデザインを手がけています。台湾は、2008年に訪れました。その時は、中原大学主催シンポジウムで「文化の根底にある風土」と題して講演を行いました。
交流報告から、大渓木藝生態博物館や桃園市全体、C houseでの建築物の保存・活用や視覚伝達デザインについての計画思想の確かさと成果の質の高さに興味を持ちました。造形をデザインの第一の目的としていないこと、西欧由来の近代デザインの基礎技術の習得の上に地域性と今日の課題に即したデザインが行われ、成果が施設や地域を補完する部分となっていることに共感しました。母語、漢字に対する理解の深さも関係しているように思いました。一方日本では、地域の風物の模倣や、近現代の欧州や米国のデザインを模倣した成果の背景として地域景観を生かすことを地域性の顕在化、地域的と捉えているようです。私はそれに異議を唱え続けてきました。そんなことも議論しながら交流していければと思います。
⑧加守田泉さん
益子町で小さなパン屋を営んでいます。 報告を聞いて1番に思ったのは台湾の人たちは勢いがあるなぁということです。新しいことを始める人に前向きに協力する人の輪ができ、どんどん形になっていくのが素晴らしいと思いました。 私もそんな勢いのある台湾を是非訪れてみたいです。台湾のお菓子にも興味津々です。
ご参加の皆さん、ありがとうございました!