5|コトバの国のコザルたち4
「シーザーサラダにさつまいもは入れるか?」

2006年に某パズル雑誌に書いていた「言葉×子ども」をテーマにした連載エッセイの中から、4編をほんのすこし加筆修正して掲載します。登場する個人名は、連載当時は「仮名」にしていましたが、ここでは容赦なく愛を込めて実名です。内容については2%ほどのフイクションが含まれます。

………………

「また、あのサラダ食べたい!」
次女メグが、突然目を輝かせて言う。
「あのサラダって?」
「クリントンが入ってるやつ!」
「クリントン? そんなの入れたサラダ作ったっけ?」
まあ、ほんとは何を言いたいのか、速攻わかってしまったとはいえ、
すぐ訂正したら、面白くないじゃないかー。
あ、いえ、本人のためにならない、ということです。
「クリントンねえ、入れたっけなあ? どんなの?」
「もう忘れたの? 生協のレタスについてきたじゃん。
 カリカリしてんの」
「いやー、いくら生協でもクリントンセット商品は無いと思うよ。
 まがりなりにも元アメリカ大統領だし」
「ええ、さっき、何て言ったっけ? ほんとはなんだっ?」
「クルトンでしょ」

こんなやりとりをしていたのは、彼女が小四の頃。
先日、カリカリベーコンとレタスと水菜とゆでたまごの
シーザー風サラダ(残念ながらクルトンなし)を
食べながら聞いてみた。
「そういえば、クルトンのこと、クリントンって言ってたよね。
 どんな人か覚えてる?」
メグは、一秒もおかず即答する。
「知ってるよ! セクハラの人でしょ」

そっかあ! この一言ですべてが納得できた。
小四生の頭に、どうして
「クリントン」がインプットされていたのか。
同じ間違えるなら、クリリン(サンリオのキャラ)、
クルタン(だれ?)などのかわいい系ではなかったか。
当時は、クリントンが出版した
モニカ嬢とのスキャンダルも綴った回顧録が話題になっていた頃。
ニュースやワイドショーには、モニカさんの画像が垂れ流され、
彼女は「モニカさんって、かわいいよね~」などと
反応していた記憶がある。
コザルからコギャルへ進化の途上にあった彼女は、
芸能人の恋愛スキャンダルなどに興味津々であった。

「そんなことより、もすこしさあ、
 ニュースもちゃんと聞いてた方がいいよ、もうすぐ中学だし」
 と、いちおう姉のサキが横やりをいれる。
「べつにだいじょうぶだもん、この前も掃除の時間に、
 みんなで北朝鮮の話してたし!」
「どんなこと?」
「やせてる人が多くて、かわいそうだよね、とか、
 大統領(正確には主席)の子どもはぜいたくしてるらしいとか」
「ほうほう、ほかには?」
「みーちゃんんが言ってたけど、ディズニーランドに行きたくて、
 こっそり日本に来てたって」
「ほうほう、ほかには?」
「あと、ポテドンが本当に日本に落ちてきたらこわいねって」
「ポテドン!」と、ハモって大爆笑する私とサキ。

「ちがう? なんだっけ? ポテ。テポドン?
 わたしじゃないもん、やっちゃんが言ってたんだもん」
 焦って訂正するメグを横目にサキが言う。

「そういえばさあ、こないだの現社のテストでさ、
 最後にニュースがらみの問題あった。
 自民党総裁選に出馬している人の名前を書けって」
「誰を書いたの?」
「よくニュースとかでしゃべっている人
(官房長官のことらしい)を書いた。
 でも下の名前の漢字がわかんなくて、ひらがなで書いた」
「まちがって、しんたろうって、書いてない?
 そっちはお父さんだよ」
「だいじょうぶ。しんたろうなんて書いてない。
 こんよう、だよ」

「は?」
「だから、青木こんよう、だよ」

 

 

どちらの青木さまでしょうか?

 青木昆陽 あおきこんよう
 江戸時代の儒学者・蘭学者。
 サツマイモの栽培を広め、農民を飢えから救う。
彼がなぜ、三百年の時を超えて、
女子高生の現代社会の答案の上によみがえったのか、
まったくもって謎である。

 

シーザーサラダに、さつまいもは、いれないよ!