6|「宿題女王」

毎日毎日、担任の先生から出される宿題。
宿題なんてめんどくさいものは、無いほうがいいにきまってる。
だが、山田りりか(小三)の場合、
宿題は、青春のすべてを賭けるに値するものだった。
ごくごくありふれた、ふつうの宿題が彼女特有の思い込みによって、
毎回、はげしく脱線していく。
それでも、いつも先生のチェックは、クリア。
彼女は一度も宿題を忘れたことがない。
最高の内容を提出する、宿題女王なのだから。

 

第1話
身のまわりから四角形をさがそう、の巻

りりかは、宿題をわすれたことがありません。
お母さんに、宿題やってないでしょ! と、
しかられたこともありません。
なぜなら、りりかは、せかいでいちばん、
宿題が大すきな子どもだからです。

今日も、りりかは、
先生がこくばんに宿題をかくのを、
れんらくちょうをひらいて、
わくわくしながらまっていました。

(しゅくだい)
身の まわりの もので、
四角い 形を したものを さがそう。

先生が、こくばんにそうかくと、
みんなが、くちぐちにおしゃべりをはじめました。

「おりがみ!」
「はこでも いいの?」
「さがしたら、どうするんですか?」

先生は、にっこりわらって、いいました。
「おうちの人にきいて、
学校にもってきてよいものだったら、
もってきてください。
もってこられないものは、その名前を
さんすうのノートに、かいてきてください。
えが かきたい人は、えをかいてきてもいいですよ」

 

かえりみち、めぐちゃんは
「わたし、えはがき、もっていく」
と、いいました。
さきちゃんは、
「きのう、かってもらったチョコのはこ、もっていこう」
と、いいました。

みんな、そんなにかんたんにきめちゃって、いいのかな。
それじゃ、つまんないのに・・・。

りりかが、そうおもいながら、あるいていると、
がっきゅういいんのミハラくんが、
いそぎ足で、みんなをおいこしていきました。
花やさんのかどのところでふりかえると、
ミハラくんは、りりかたちにむかって、
こうさけびました。

「ぼくは、あした、
 ルービックキューブをもってきますからね。
 あれこそが、まさに、四角の王さまでしょう!
 キング・オブ・四角!
 きみたち、まねしないでくださいよ」

「まねしないで、だって!」
と、めぐちゃんがいいました。

「ルービックなんて、しらないもん。まねしないよねぇ」
と、さきちゃんが いいました。

「あたし、しってる。
 ちいさな四角がたくさんついてて、
 大きな四角になってて、
 ガチャガチャまわしてあそぶの」
りりかは、そういって、
ふたりにせつめいしながら、おもいました。
すごいな。ミハラくん。ほんとに四角の王さまだ。

りりかが家にかえると、おかあさんは、
チワワのちーちゃんのブラッシングをしながら、
りりかのかおを見るなり、いいました。

「あらまあ、むずかしいかおをして、
 どうしたのかしら」

「四角の王さまより、すごいものを さがしたいの!」
と、りりかは いいました。

「あらまあ、それはたいへん!
 四角の王さまよりすごいものといったら
 やっぱり、四角の 王子さまじゃないかしら?」

え?
王子さまは、王さまの子どもなのだから、
ぜんぜんすごくないと思う。
やっぱり、おかあさんにそうだんしなきゃよかった。
りりかは、そうおもいながら、
じぶんのへやにいこうとすると、
おかあさんがいいました。

「だって、ほら、ものがたりのせかいでも、
かつやくするのは、王さまより王子さまよ。
きっと、どこかにいるわよ。
りりかの、四角い王子さまが」

うっとりするようなかおをして、
そんなことを いわれても、
やっぱり、おかあさんのいうことは、
いみがわかりません。

りりかは、じぶんのへやで、
四角いものをさがしてみました。

ハンカチ
ふうとう
シール
ノート
しゃしん

トランプのように、角がまるい四角もあります。
はがきのように、かどばった四角もあります。

わりばしのふくろのように、ほそ長い四角もあれば、
ましかくのおりがみもありました。

身のまわりには、四角いものが、
ほんとうにたくさんあります!
でも、りりかが宿題でもっていきたいとおもうものは、
なかなか、ないのでした。

くぅん。

チワワのちーちゃんが、
なぐさめにきてくれました。
「ちーちゃん、おさんぽ、いこうか!」
りりかは、きぶんてんかんに、
さんぽにいくことにしました。

いつものみちを、ちーちゃんとあるいていると、
松の木がりっぱなおうちのまえで、
ちーちゃんが、しっぽをふりながらほえはじめました。

くぅわん、わん!

「ちーちゃん、どうしたの?」
ちーちゃんは、げんかんの前から、うごこうとしません。
ここは、たしか、田口さんの家・・・・。

「あっ!」

りりかは、とつぜん、
ちーちゃんにまけないくらいの大声でほえました。
いえ、さけびました。

「すいません、田口さん!」

りりかは、げんかんのチャイムをおしました。
へんじがありません。
るすのようです。

どうしよう。 せっかく、いいことをおもいついたのに!

あした、学校に行く前に、また来よう。
朝なら、田口さんは、きっといるはずです。

 

さて、つぎのひ。
りりかは、いつもより、ちょっとだけはやく、
いえを出ました。

「田口さん、すいません!」
りりかは、チャイムをならしました。
だれも でてきません。

「田口さん、いますか?」
りりかは、げんかんの とを たたきました。
へんじが ありません。

ああ、どうしよう。
このままでは、りりかの宿題が大ピンチです。

そのとき、げんかんのまえに、
小さなはこがおちているのに、気がつきました。
マッチのはこでした。

スナック まちこ

中にはいっているマッチも、
ぼうのところが、きれいな四角になっています。

りりかは、マッチのはこをポケットにいれて
とぼとぼと学校にむかいました。

さんすうは、一じかんめです。

ああ、どうしよう。
宿題をわすれたことになるのは、
ぜったいに、いやなのです。
マッチのはこをだそうかなぁ。
ああ、でも、なんだか、
スナックまちこの もじが、はずかしい。

りりかは、あたまのなかが、ぐるぐるして
ふらふらしてきました。

「りりかちゃん、どうしたの?」
「きもち、わるいの?」

くつばこのところで、めぐちゃんと さきちゃんが、
しんぱいして、りりかの かおを のぞきこみます。

「ほけんしつ、いこう!」

1じかんめのチャイムがなったとき、
りりかは、ほけんしつのベッドにねていました。

 

「おかあさんに、
 でんわしておきましたからね。
 きょうは、おうちで、
 ゆっくりやすんだほうがいいわね」
 ほけんしつの先生が、
やさしくこえをかけてくれました。

そんなぁ。
ちょっとあたまがぐるぐるしただけなのに。
りりかは、はずかしくなって、
ふとんをあたまのうえまでかぶりました。
いつのまにか、
そのままうとうとしてしまったようです。
りりかが、目をあけてとけいを見たときには、
あと十分で、一じかんめがおわろうとしていました。

ああ・・・。

そのときでした。
まどのそとから、きこえてきます。

チョキチョキ
チョキーン
チョキチョキ
チョキーン

この音は!

りりかは、ベッドからとびおきて、
ものすごいいきおいで、
こうていへ、とびだしていきました。
こうていのすみにある松の木を、
しょくにんさんが、はさみで手いれしています。

「田口さん!」

りりかは、そうさけぶと、
田口さんに、とっしんして、うでをつかみ、
くつばこのほうへと、はしりました。
「きのうも、きょうのあさも家に行ったのに!」

なにがなんだかわからない田口さんは、
りりかにひっぱられて、
いっしょに、きょうしつにむかいます。

ちょうど、さいごのひとりが、
宿題の「四角」を、みんなの前ではっぴょうしているところでした。

まにあった!

りりかは、きょうしつの前のドアをあけて、
田口さんと、中にはいりました。
そして、こくばんの前に、ならんでたちました。

「りりかちゃん!」
「どうしたの?」
「その人、だれ?」
 ざわざわするきょうしつのみんなをみわたして、
りりかは、いいました。

「わたしが、身のまわりで、みつけた四角です。四角王子です」

田口のおじさんは、
かおのかたちも、まゆも、それからはなも、
それはもう、どうどうとした、四角でした。
あたまにまいた、白いタオルも、
ほどいたら、もちろん、四角です。

クラスのみんなの目は、
田口さんにくぎづけです。

がっきゅういいんのミハラくんも、
口をぽかーんとあけて、
田口さんを見つめています。

なにがなんだかわからないのは、田口さんです。
ゆうべ、スナックまちこでおさけをのみすぎて
あたまがズキズキするのですが、
こどもたちの まえに たっているのですから、
なにか、おはなしをしたほうがいいのかな、
とおもいました。

「松の木、さくらの木、さるすべり。
 こうていの木は、
 あっしが、こころをこめておせわしていますんで、
 どうか、みなさん、
 かわいがってあげてください」

田口さんの、どうどうとした、四角っぷり。

それに、りりかの四角は、しゃべるのです。

田口さんが、はなしおえると、
みんなが、いっせいに、はくしゅをしました。

こくばんには、
みんなの名前と、はっぴょうしたものを
先生がかいていました。
先生は、にっこりわらって、
りりかのところに、こうかいてくれました。

山田りりか 田口さん

りりかをむかえにきて、
うしろのドアからこっそりようすをみていた
おかあさんのめにも
なみだがうっすらとうかんでいます。

「なんて、すばらしいんでしょう!
 田口さん、名前のかんじも
 四角だけでできてるわ」

よかったね、りりかちゃん。(完)

 

(2008年・未発表)

5|コトバの国のコザルたち4
「シーザーサラダにさつまいもは入れるか?」

2006年に某パズル雑誌に書いていた「言葉×子ども」をテーマにした連載エッセイの中から、4編をほんのすこし加筆修正して掲載します。登場する個人名は、連載当時は「仮名」にしていましたが、ここでは容赦なく愛を込めて実名です。内容については2%ほどのフイクションが含まれます。

………………

「また、あのサラダ食べたい!」
次女メグが、突然目を輝かせて言う。
「あのサラダって?」
「クリントンが入ってるやつ!」
「クリントン? そんなの入れたサラダ作ったっけ?」
まあ、ほんとは何を言いたいのか、速攻わかってしまったとはいえ、
すぐ訂正したら、面白くないじゃないかー。
あ、いえ、本人のためにならない、ということです。
「クリントンねえ、入れたっけなあ? どんなの?」
「もう忘れたの? 生協のレタスについてきたじゃん。
 カリカリしてんの」
「いやー、いくら生協でもクリントンセット商品は無いと思うよ。
 まがりなりにも元アメリカ大統領だし」
「ええ、さっき、何て言ったっけ? ほんとはなんだっ?」
「クルトンでしょ」

こんなやりとりをしていたのは、彼女が小四の頃。
先日、カリカリベーコンとレタスと水菜とゆでたまごの
シーザー風サラダ(残念ながらクルトンなし)を
食べながら聞いてみた。
「そういえば、クルトンのこと、クリントンって言ってたよね。
 どんな人か覚えてる?」
メグは、一秒もおかず即答する。
「知ってるよ! セクハラの人でしょ」

そっかあ! この一言ですべてが納得できた。
小四生の頭に、どうして
「クリントン」がインプットされていたのか。
同じ間違えるなら、クリリン(サンリオのキャラ)、
クルタン(だれ?)などのかわいい系ではなかったか。
当時は、クリントンが出版した
モニカ嬢とのスキャンダルも綴った回顧録が話題になっていた頃。
ニュースやワイドショーには、モニカさんの画像が垂れ流され、
彼女は「モニカさんって、かわいいよね~」などと
反応していた記憶がある。
コザルからコギャルへ進化の途上にあった彼女は、
芸能人の恋愛スキャンダルなどに興味津々であった。

「そんなことより、もすこしさあ、
 ニュースもちゃんと聞いてた方がいいよ、もうすぐ中学だし」
 と、いちおう姉のサキが横やりをいれる。
「べつにだいじょうぶだもん、この前も掃除の時間に、
 みんなで北朝鮮の話してたし!」
「どんなこと?」
「やせてる人が多くて、かわいそうだよね、とか、
 大統領(正確には主席)の子どもはぜいたくしてるらしいとか」
「ほうほう、ほかには?」
「みーちゃんんが言ってたけど、ディズニーランドに行きたくて、
 こっそり日本に来てたって」
「ほうほう、ほかには?」
「あと、ポテドンが本当に日本に落ちてきたらこわいねって」
「ポテドン!」と、ハモって大爆笑する私とサキ。

「ちがう? なんだっけ? ポテ。テポドン?
 わたしじゃないもん、やっちゃんが言ってたんだもん」
 焦って訂正するメグを横目にサキが言う。

「そういえばさあ、こないだの現社のテストでさ、
 最後にニュースがらみの問題あった。
 自民党総裁選に出馬している人の名前を書けって」
「誰を書いたの?」
「よくニュースとかでしゃべっている人
(官房長官のことらしい)を書いた。
 でも下の名前の漢字がわかんなくて、ひらがなで書いた」
「まちがって、しんたろうって、書いてない?
 そっちはお父さんだよ」
「だいじょうぶ。しんたろうなんて書いてない。
 こんよう、だよ」

「は?」
「だから、青木こんよう、だよ」

 

 

どちらの青木さまでしょうか?

 青木昆陽 あおきこんよう
 江戸時代の儒学者・蘭学者。
 サツマイモの栽培を広め、農民を飢えから救う。
彼がなぜ、三百年の時を超えて、
女子高生の現代社会の答案の上によみがえったのか、
まったくもって謎である。

 

シーザーサラダに、さつまいもは、いれないよ!

4|コトバの国のコザルたち3
「呼び方の件につきまして」

2006年に某パズル雑誌に書いていた「言葉×子ども」をテーマにした連載エッセイの中から、4編をほんのすこし加筆修正して掲載します。登場する個人名は、連載当時は「仮名」にしていましたが、ここでは容赦なく愛を込めて実名です。内容については2%ほどのフイクションが含まれます。

………………

「今日から、ママって呼ばない!」

四月から高校生になった(漢字は書けなくても)長女が、
突然、こんな宣言をした。
たかが呼び方、されど呼び方。一応、抵抗を試みてみる。

「別にさあ、外では『おかあさん』とか『母は』とか、
 使い分けができてるんだから、今のままでいいじゃん?」

「もうとにかく、ママって気分じゃないわけよ」

そういうわけで、じゃあどう呼ぶか?は保留のまま、
宣言会議は閉幕した。

おもえば、子どもが親のことをどう呼ぶかは、
赤ちゃん時代からの親の会話でほど決まると思われます。

「おかあちゃんだよ」と話かけていれば、子どもは
「おかあちゃん」と認識するし、
「おかんはね」と話しかけていれば、
子どもは「おかん」と呼ぶようになる。

ご近所のユウスケくんは、父親のことを幼稚園で話す時に
「お父さん」とも「パパ」とも言わなかった。
「ユウくん、上手に描けたね。この絵は、お父さんかな?」

「ううん、ダンナだよ」

お母さんの話では、自分がユウスケくんと話す時に使う
「お父さんはね」という言葉よりも、友人たちとの井戸端会議での
「うちのダンナが」という会話の方が、
子どもにとって印象が強かったのかも、とのこと。

 

父親のことを「ダンナ」と呼ぶ男の子がいても、
それはそれで別にいいと思うのでありますが、
まあ当然のことながら、その後、幼稚園で教育的指導を受け、
「お父さん」に矯正されたらしい。

兄弟姉妹間で、どう呼び合うか、これも親の話しかけ方の影響大!
次女メグは、ヒトの言葉を話し始めたころから、
長女のことを「お姉ちゃん」と呼んだことが一度もない。

「サキ、色鉛筆かして!」
「サキは明日、部活あんの?」

名前の呼び捨てでアル。
私が次女に話しかける時に、長女のことを、
「おねえちゃんはね」ではなくて「サキは」と話していたから、
自然とそうなったのであろうと思われマス。

 

ところがここにまた、世間の教育的指導が入るのでありマス。
次女が小学校低学年の頃、公園で遊ぶ姉妹の会話を聞いていた
近所のシニアマダムから
「年上なんだから呼び捨てはだめだよ。
お姉ちゃんって呼ばなきゃ」と言われたらしく、
夕食の場で、そのことが話題になった。

「サキ、お姉ちゃんって呼んだほうがいい?」

「お姉ちゃん? やめてよ、気持ち悪い。別に名前でいいよ」

この会話をもちまして、
マイリトルホームの伝統は守られたのでありマス。

大切なのは、世間の常識より、両者の合意。

名前でお互い呼び合うことで、
たまたまどちらが先に生まれたかという「形式」にとらわれず、
ふたりとものびのび仲良くやっているし。

 

さて、「ママと呼ばない宣言」をした長女のその後。
ママに代わるコトバがなかなか決まらないご様子。

 

「おかん!」と突然話しかけてきたり、
「お母さんも食べる?」と葡萄のグミの袋をもって近寄ってきたり

ある時は、「ねえ、ユー」と、
ちょっと斜に構えたポーズで私を指さしながら

「ユーは今日、買い物に行く?」と、

わけのわからないキャラで攻めてきたり。
(後日、ジャニー喜多川キャラと判明)

でも、まあ、どれもしっくりこないらしい。

 

部活用のスポーツバッグと学生かばんを抱えて、
ばたばたと玄関を出る彼女に言ってみた。

「ハニーにすれば?」

「は? ハニワ? ハニワがどした? ん?」

 

シャカシャカミュージックのイヤホンが詰め込まれた耳には、
私の戯言も正確には届かず、
けげんそうな顔をしながら、
真岡鐵道北山駅にむけてダッシュしていった彼女。

そもそも、まったく別の呼び方にしようとするから、
決まらないのでアル。
ちょっとだけ変化させれば、スムーズに移行できるというものだ、

チェブラーシカのメモ用紙に案を書いて、

彼女の机の上に置いてきた。

呼び方の件

「ママン」キボンヌ

数日たっても反応も無ければ返事もない。
こっそり机を見に行くと、「呼び方の件」は、
プリントからコミックスやら新しい教科書やら
雑誌『ミーナ』やらの雪崩の中で、ひっそりと窒息していた。

その後、いつの頃からか、長女からも次女からも、呼ばれ方は
「キミ」で定着している。
ハニーにもママンにもなれなかった、ハニワな(表情の)
私の昨今でアル。